義兄と私 ―TV―


うちの義兄は非常にうるさい。

毎日毎日私のやることなすことにいちいちケチをつける。

要領が悪い、趣味が悪い、教養がない等々、枚挙に暇がないとはこのことだ。

…しかしそれならば何故、私がテレビアニメを見ている時は一緒になって
横で見るのだろーか?



その時、私は義兄の向かいに座って夕食をとっていた。

執事さん以外他は誰も居ない。
養父母は外に出たきりまだ帰っていなかったし、義理の祖父母は
自分達だけ別に離れで食事を取ることを常としている。
(てっきり養女の私が気に入らないからかと思っていたが、
義兄に言わせるといつものことらしい)

ま、そんな家庭事情はともかく今日も義兄と2人で夕食を
もぎゅもぎゅしている私である。

「なあ…」

私は口の中の物を飲み込んで言った。
いくらなんでも2人で虚しくモソモソ飯を食うよりは何か喋った方が
良いに決まっている。

「何だ?」

義兄が視線をこっちに向ける。

「前から思てたんやけどさ、にーさんはあんなアホみたいにようけおる部員の顔と名前覚えてられるん?」
「あんだ、その人数多いのを揶揄してるみてぇな言い方は。」
「ヤユなんてとんでもない。」

そら、含むところがないとはいわんが。

「ただ、気になってただけ。」

義兄は本当かよ、という顔をして

「よっぽど親しい奴じゃなきゃ準レギュラーにもなれねぇザコのことなんか知るか。」

と、スープを一口すすった。

「うわーヒドー(ひどい)、鬼ぶちょーやー☆」
「うるせぇぞ、3歩歩けばすぐ忘れるヒヨコ頭が。」
「そんなことないで、昨日見たアニメの歌とか台詞とかちゃんと覚えとうもん。」
「ロクな頭じゃねーな。」
「…昨日も一緒にテレビ見とったくせに。」
「そんなこともあったか。」

義兄はすっとぼけて、ふと思い出したかのようにこう言った。

「で、。今日は何見るつもりだ?」

口の中にスープが入っていた私は危うくそれをふきだすところだった。
結局一緒に見る気マンマンやないか!!

「えーとね…」

何とかスープを飲み下して私は番組名を答える。

「そうか…」

義兄は言って肉を一切れ口に運ぶ。

当事者が言うのもなんだが非常にシュールな会話だ、跡部様ファンクラブの皆さんが
聞いたら確実に普段とのギャップの激しさに気絶することだろう。

あーあ、執事さんも笑いこらえてるよ。

「…何笑ってんだよ。」

義兄も気づいたらしく、執事さんにムッとした顔を向ける。

「いえ、」

老練な執事氏は人好きのする笑顔を返した。

様と話されている景吾様が大変楽しそうにしておられるのでつい…」
「別にそんなんじゃねー、勘違いするな。んなこと言ってたらこいつが
図に乗るだろーが。」

こら、仮にも義妹をフォークで指すな。

「おい、。」
「はい、何でっか、にーさん。」
「番組の時間になったら呼べよ。」

義兄は言うだけ言って先に食事を済ませると席を立った。
そしてバタンッと食堂の扉を閉めて姿を消した。

えーとぉ…
何かやばかっただろうかと戸惑ってしまい、義兄が消えた扉を指差しながら
私は執事氏を見やった。

「お気になさらずに。」

執事氏は私の言いたいことを察して言った。(ちなみにまだ密かに笑っていた。)

「照れていらっしゃるだけですよ、様に怒ってはおられません。」

私は黙って肯いた。
口の中には義兄が立ち去った直後に入れた肉がまだ入っていた。



で、次の瞬間には私は義兄と一緒にリビングでテレビを見ていた。

しかし…

「おい、。今出てきた黄色い動物はなんだ?」
「ハッ、馬鹿馬鹿しい。んな展開ありかよ。」
「おい、さっきのキャラデッサン狂ってんな。」

…………………………………。

「でーい、やっかましーーーーーーーーー!!!」

私はとうとうキレた。

「ちょっとにーさんっ、たまには静かに見てよ、鬱陶しい!!
台詞が聞こえへんやないのっ!!」
「俺は思うところを正直に言ったまでだ。大体何も考えずにテレビばっか見てたら
只でさえボケてんのに余計ボケるぞ、バーカ。」

こっ、この野郎ーーーーーー!!

私は思わず義兄に飛び掛ったが、あっさりかわされた上、
頭をガシッと押さえられてしまう。
後は虚しく届かぬ腕をブンブン振り回すだけ。

「離せー、このデカブツー!!」
「俺は別にでかくねーよ、お前が小せぇんだろが。身長160以下じゃあなぁ。」
「いちいち台詞ムカつくしー!!」
「静かにしろよ。」

義兄は言ってほら、といきなり私の頭を離し、ブラウン管を指さした。

「お前が騒いでる内に、番組終わっちまったみてぇだぜ?」

!!!!?????

「うっそやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ?!」

リビングに私の絶叫がこだました。



「最悪やー、今日はヴィデオに録ってへんかったのにー。」

私は義兄を睨んだ。

「にーさんのせいやで。」
「バーカ、俺に関わってたお前が悪いんだろうが。責任転嫁するんじゃねーよ。
そもそも先に録画予約できねーほどお前は機械音痴じゃねーはずだろ?
何でちゃんとしとかなかったんだよ?」

そらまーそーですけどね!!
しかしアンタだって私が見ているのを邪魔する権利はないでしょが!!

うー、やりきれないぞ私は…

私はブツブツ呟いてリビングの隅で拗ねてしまった。
ガキくさいと言われようが何だろーが、たまにはこういう行動に出ても
罰は当たらんと思う。
だって常日頃えらい目に遭わされてんのは私だしー。

「おい、。」

さすがに見かねたのか、義兄が拗ねてる私のところに近寄ってきた。

「…。」
「いつまで脹れてやがる。」
「しらんもん!」
「てめぇ…」

義兄は一瞬、私の首根っこを掴もうとしたようだが思い直したのか、手を顔にやってため息をついた。

「手間のかかる奴だな、おら、こっち来い。」
「嫌やー、知らんもーん!」
「14(じゅうし)にもなってグズんじゃねぇ!さっさと来い!」

首根っこは掴まれなかったが、結局腕を掴まれて私は義兄の部屋へ引き摺られた。

で、義兄の部屋へ連れてこられた私は、ムーッとして義兄に背を向け
ベッドに座っていた。
(というより座らされていた)

、」

呼ばれたので一応義兄の方を向いてみたり。

「こっち見てみろ。」

言って義兄が指さしたのは彼の机の上に持ち主のごとく
偉そうに乗っかっているデスクトップパソコン、しかも最新式の処理速度が凄く速い奴である。

一体何やねん。ホンマ、いつもながら不可解なアニキやな…。

義兄は何がおかしいのかニヤニヤ笑いながら、パソコンを操作した。
途端、何かのアプリケーションが起ち上がる。

そーいや、この人のパソコン、テレビ見れるように設定されとったっけ。

それから義兄はまたアプリケーションを操作して何かを画面に映し出した。

「ふぇっ…?!」

私は思わず吃驚。
するな、というのが無理というもんだ。
だって…

パソコンの液晶モニターに映されたのは、さっき私が義兄と騒いでて見損ねた番組だったんである。

「??? どないなっとんの?」
「どーしたもこーしたも、俺様がわざわざ予約しといてやったんだろーが。
有難く思いな。」
「うん。」

私が言った瞬間、ズコッという音がしたのは気のせいか。

失敬なやっちゃな、人が素直に返事したからってそないずっこけんでもええやろ。

「へぇ、珍しく素直だな。」

動揺を押し隠しながらも格好をつけようとする義兄の姿は
早々お目にかかれるもんではない。

「ありがと、にーさん。」

ベッドの上に座って液晶画面を見つめながら私は呟いた。

「ハッ、」

義兄はいつものように馬鹿にした笑いを漏らして、ボフッと私の隣に座り込んだ。

「はなからそれくらい素直にしてればいーものを。手間かけさせるんじゃねーよ。」
「前言撤回するで。」
「言ってろ。」

それから私と義兄は2人してベッドの上で録画したアニメを見ていた。

「そーいや、」

私はふと思い出して言った。

「にーさん、いっつも文句言うくせに何で私とアニメ見るん?」
「あ?」

義兄は面倒くさそうに首をこっちに向けた。

「決まってんだろーが。」
「?」
「見てる時のお前の面がおもしれぇからだよ。」

………………………。

「んもーっ、嫌いやっ!アンタなんか!!」

―TV― End



作者の後書き(戯言とも言う)

結構自分ではいい出来かも。

跡部少年でこういう感じがあったらいいと思いません?
(聞いてどないする)

ちなみにテレビが見れるパソコンは実際、私の妹が持ってたりします。
んでそれで好きなアニメをしょっちゅう録画してます。

…で、それはきっちり最新式と言える機種だったり。

もうボチボチこの連載も終わりに近づけることができそうです。

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